DoubleMintGum

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『北京故事』

『北京故事』とは何か

映画『藍宇』の原作はインターネット小説である。(中國ゲイサイトに掲載された小説)
原作者「北京同志」は実はアメリカ在住の中國人女性であるとか。(実名?まで出てるけどねえ) 映画のヒットに便乗して、ネットで偽の作者が続編を書いたとか。 まあ、色々噂はつきないようだ。

ついに小説本が発行されました!
あー良かった。これで電車の中でも、昼休みでもゆっくり読めるじゃなーい。エロ場面読んでて、隣の人に覗かれても安心じゃなーい。
台湾発行。現在台湾、香港でのみ入手出来る。
(台湾のネット書籍通販でも入手可能)
帯のうたい文句が凄いです。
原作は100%捍東の視点からで、遊びのつもりがどんどん藍宇に惹かれていく(けどなかなか素直にそうは認めないズルい男め)様子や、藍宇自身が成長し輝いていく様子が丹念に描写されていて、かなりの筆力を持った人である、というのはわかる。

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書籍の後書きより・・・・私が『北京故事』を書き始めたのが1998年の秋。
エロ・サイトを見て歩くなかで「アホか!こんなんなら自分が書いた方がマシ!」と思いネット上で作品を発表した。「これはノンフィクションか?」と問われれば「フィクションである」
発表後、多くの反響が有り、ある人は「近年稀に見る傑作だ!感動した!」と言うし又ある人は「この作者、小説書きながら自慰してるんじゃ?」とも言うし。
1999年、ネット上でこんな事を聞かれた。「あなたは捍東?それとも藍宇?」私は「捍東でも藍宇でもない」と答えた。
「じゃあ何故あなたのe-mailの名は藍宇なのか?」
「それはあなたと同じで藍宇という名前が好きだから。この物語が出版されるなら本のタイトルは『藍宇』だから」

すいません、かなりはしょってまーす。しかも超意訳。
私のお気に入りは、扁桃腺で高熱出して入院した藍宇の点滴見つめる捍東とか、捍東の父が死んだ時に初めて自分の家族の事を打ち明けて二日酔いになってしまう藍宇・・・・かな。 

★ネット版と書籍版との違い

そりゃありますよ、色々。
ネットで「毛片」が書籍で「A片」になっていたり、ネットで微に入り細に入り描写されていた「做愛」場面が書籍ではざっくりばっさりと削除されていたり、獄中の捍東に藍宇が書いた手紙の署名がネットでは「宇」の一文字だったのが、書籍では「藍宇」の二文字であったり(なので当然これを受けて第28章の二人の会話も変わってくる)・・・・などなど。
どっちも好きですが、よりエロな表現を求めるのならネット版を読もう。 

★映画と原作の違い

もちろん、あるさ。
原作ファンは大体映画に対して辛口みたいね。でも映画を先に見て惚れ込んでしまった私は、小説を読んで更に惚れました『藍宇』に。
藍宇、捍東のバックグラウンドや二人の関係が深く積み重ねられている分、切ない。
何より捍東がこれほどまでにひどい男だったとは!藍宇がここまでピュアで真直ぐだったとは・・・・それでも捍東に共感してシンクロしてしまう自分って一体
そして原作(ネット版)はもっと、かなり、相当エロです。さすが18禁。
ラストシーンは映画の方が前向きだと思います。原作のエピローグはあまりに辛すぎる・・・・。

★捍衛毛沢東

捍東の名前はここからきている。
一体どういう意味?何となく判るような判らないような・・・・困った時のJimmy頼み!
私の廣東語教師、李嘯谷さんことJimmy曰く「Marxism、Leninismと並んでMaoismは中國の指導思想であり、守らねばならないのです。「文化大革命」時代(1967~76)生まれの者にはそういうイデオロギー色の濃い名前が多いです」
なるほど、毛沢東思想を守る・・・・ねえ。
同時代に日本に生まれイデオロギーなんぞとは無縁に生きて来た私には、背負うものが大きそうな名前であるな、と溜息が出る。
大自然と自由の象徴みたいな名を持つ藍宇に、彼は計り知れない大きな支えをもらったのではないだろうか。
他媽的性感な「藍宇」という名前と「捍東」という名前の対比も凄いですねえ。
ちなみに原作には出て来ないが、映画では捍東の弟の名前は「衛東」になっている。

★國際歌(インターナショナル)は誰のもの?

『Making Blue』(『藍宇』メイキング・フィルム)では本編には使用されなかったカットが多数収録されているが、その中でも私にとって特に印象深かったのが、雪原で二人が歌うシーンである。いや、『你怎麼捨得我難過』よりも一瞬だけ藍宇が歌う『國際歌』の方。
 「起来!飢寒交迫的奴隷、起来!全世界受苦人!」
 ここで『國際歌=インターナショナル』を語るのに、以下引用します。
「1871年パリ・コミューン陥落後、中央委員であったウージェーヌ・ポチエはロンドンの亡命先で『インターナショナル』の原詩を書いた。ポチエの死後、彼の詩集『アトリエのシャンソン』にあった『インターナショナル』に目を付けた織物職人ピエール・ドジェイテルは「副職」としてキャバレーのオルガン弾きをやっていたが、ある日自作のメロディーを付けて『インターナショナル』を歌ってみた。すると彼に合わせてキャバレー中が大合唱になってしまった。ーーーーというのが、この百年間、フランス労働党大会に始まり、世界中のあらゆる言語で社会主義者、共産主義者、アナーキスト達の間で歌い継がれた『インターナショナル』の誕生史である。元々シャンソンであったこの「民衆の歌」は、各国労働党の代表使節がフランス労働党大会から持ち帰り「軽率な訳」を付けることによって、世界中に広まった。1943年までソ連邦の国歌であった事に代表されるように「共産党の歌」である、という認識が先立ち、抑圧される側の民衆が歌い継いだ「シャンソン(歌)」であった事など忘れられがちであるが、1989年6月の天安門廣塲で学生達がこの歌を大合唱しながら民主化の要求をした事などは余り知られていない(知らされていない)。
 "天安門事件"後、バンクーバー・フォーク・フェスティバルで共演したピート・シーガーがビリー・ブラッグに『インターナショナル』を歌う事を勧めたのだが、有名な英訳詩が古風で現代的でない、という結論に至った。そこでドジェイテルの刺激的なメロディーに、ビリーは新しい自作詩を付けて歌うことにし、「民衆の歌」を「国家」から取り戻し「歌い継いでいく」意図の元、レコーディングされたのがこの『インターナショナル』のバージョンなのであるー以下略ー」
Billy Bragg :CD『THE INTERNATIONALE』レビュー(1992年7月21日発行、月刊ソウル・フラワーvol.20 特集ビリー・ブラッグより引用)


さて映画の中で聞いた『インターナショナル』でもっとも強烈だったのが高嶺剛監督作品『ウンタマギルー』(1989年/日本)でしょうか。
これも一瞬でしたが、琉球独立を求めて、三線弾きながらウチナーグチ(琉球本島で主に使われる口語。方言。この映画、全編これで日本語字幕付き)で歌うシーンになぜか頭をぶん殴られたような衝撃を受けたんだわあ。
あとは姜文の『太陽の少年』、許鞍華の『千言萬語』、かの名作『ドクトル・ジバゴ』や『ブリキの太鼓』など、いやというほど聴いてきたこのメロディー。
陳果の『ドリアンドリアン』のショーステージで歌い踊るシーンでも。未見だが張婉[女亭]の『北京樂與路』でも唐朝バージョンの『インターナショナル』が聞けるそうである。
 「到明天、英特雄納爾就一定要實現!」

 ちなみに、原作第30章で藍宇が歌い出したのは『解放軍進行曲』だった。
「向前!向前!向前!我們的隊伍向太陽 脚踏著祖国的大地、背負著人民的希望
我們是一支不可戦勝的力量 我們是工農的子弟、我們是人民的武装従不畏懼、
決不屈服、英勇戦鬥 直到把反動派消滅幹浄、 毛沢東的旗職高高飄揚
聴風在呼嘯軍号響、聴革命歌声多什喨喨 同志們整齋歩伐奔向解放的戦場
同志們整齋歩伐奔向祖国的邊疆 我們的隊伍向太陽、向最後的勝利、向全国的解放」
ちょっとこれ、もしかして捍東に対する藍宇のアイロニーであるのでしょうか?


そしてこの部分を『インターナショナル』と『你怎麼捨得我難過』に変えたのは、關錦鵬と魏紹恩の意図する所だと思うわけですが。
この部分の、原作と映画(実際には使われなかった場面なのだが)の対比の深さも気になる所です。

★北京故事続編

以前から噂には聞いていた「続編」の存在。
もちろん原作者が書いたものではない、いわゆるファンフィクション。二次創作小説だ。


あらすじは・・・・カナダで静かに暮らす捍東の前に藍宇に瓜二つな青年が現れる!彼の名は「藍天」。なあんと藍宇の生き別れになった双子の兄弟だったのだ!!二人は当然のように強く惹かれあい、愛しあうのであった。藍天の育ての親が大反対したりとか、まあ色々もめたりするのだが特にこれといった葛藤もなく二人は周囲から祝福されて挙式する。指輪の交換も有るし。
あーこれを書いた『北京故事』ファンは、きっと自分の中で「こうあって欲しい!」というカタルシスを得たかったのであろう。で、このままハッピーエンドか?と思いきや!仕事で大陸に行く事になった捍東と藍天の乗ったボーイング747は突然炎上し、藍宇の元へ行ってしまうのであった・・・・。
しっかりと抱き合ったままの二人の死体からは捍東と藍天のパスポートが発見された。


原作の熱狂的支持者はいまだに多いし、それだけ影響を与えた作品であったのだな、という人気の程は伺い知れた。また『北京故事』がゲイサイトの中で話題の人気作品、に留まる事なく、広く世界に知れ渡るような良質の映画になった点も良かったな~、と思う次第。

★追記

『黒色宇宙』用に上記の『続編』を全訳したところ(長すぎるのでダイジェスト版を掲載。ちなみに『黒色~』は絶版につき在庫はありません)じっくり腰を据えて読んでみると、真摯な創作の姿勢や、切なくなるまでの健気さが感じられ正直ウルっときた。

一方で、もう新作発表はないと思われていた北京同志が二作目のゲイ小説『輝子』を発表。短編だがやはり明らかに文章力が違う。どきっとするような鮮烈な描写が胸にくる(今回、性描写は皆無に等しいです)

その後の新作『青山之戀』も台湾から出版されたので読みました。
良かったです!