DoubleMintGum

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映画『藍宇』

『藍宇』

2001年/香港 監督/關錦鵬

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今年のカンヌに關錦鵬の新作が出品された、しかも原作は中國ゲイ・サイトに発表されたインターネット小説の『北京故事』である。ちょっと、いやかなり期待して待っていたぜ!

 10年間に渡る、あるゲイ・カップルの愛の物語。いつか何処かで読んだ事があるような・・・・あまり新鮮な感じはしないのかもしれないが、私にとってこの映画はもはやベスト10上位に食い込んでしまった。

 実業家・陳捍東はバイセクシャルで、男とも女ともワンナイトスタンドの享楽的な男だ。
藍宇は東北の田舎から出て来た建築家志望の貧乏学生。陳捍東は藍宇を買う、当然のように。 捍東は藍宇にとって「初めての男」だ。
この辺り、藍宇の意志が見えない気もするのだが、金の為に男と寝るのは覚悟の上だった感じ。私達は捍東の視点で藍宇と出会う事になるのだが、ここが上手い。 藍宇の第一印象がまったくもって「だっさー!」で、ええ?と思ってしまうのだ。
 一晩かぎりの関係のはずが、北京の街角で再会する二人。捍東が藍宇にマフラーをかけるシーンの編集が好きだ。鳥肌が立ってしまったよ。やられた。こちらの感情が捍東にシンクロしてしまう。寒空の中拾われてしまった小犬のように捍東を慕い、愛する藍宇。
捍東は人を愛せない、でもそんな捍東を丸ごと受け入れ、捍東を愛する自分をも受け入れるあまりに無防備で純粋な藍宇の心。 演じる劉燁の目が美しいなあ。

 二人の関係の最初の転機は1989年6月4日に起こる。小さな諍いから捍東の元を離れた藍宇は天安門広場にいた。藍宇を助けるか否かで葛藤する捍東が、痛い。藍宇の無事を確認してがむしゃらに抱き締める姿が切ない。捍東の腕や胸に抱かれている時の藍宇の表情は全てを委ねきっているんだな、捍東の苦しそうな表情とは反対に・・・・。捍東にどんなにひどい仕打ちをされても、なんでこんな目をするのだろうってくらい一点の曇りもないような。お願いだからそんな目で「いつか飽きて捨てられるから、こんなに好きにならないようにしてたのに」だの「もう誰にも自分を傷付けさせないと誓ったんだ」だの言わんでくれー、泣けてくるじゃないか。そう、藍宇は泣かないように傷付かないように己の心に鍵をかけておいた筈なのに。
 北京(中國)の1980~90年代、捍東の会社の取り引き先が東ベルリンであったり、商談には英語ではなくロシア語が必要だった時代から、「英語を話して世界中で儲けよう!」と叫ぶ中国人が(張元の『クレイジー・イングリッシュ』ね、もちろん)現われる時代に変わったのだ。並の10年ではない。 17だった藍宇は27になった。北京の街は開発建設ラッシュで、人の心は移ろい易い。変わらないのは藍宇の捍東への愛だけ。
 今度は藍宇にシンクロしてみる、何でだろう、何故そこまで捍東が好きか。確かにちょっと父親と息子の関係でもあるような(出た!)・・・・が、実際の所、理由なんかない。藍宇自身がこう言うのだから「こんなに好きなのって変かなあ」。

 捍東が収賄容疑で逮捕され、地位も名誉も金も全て失い、残ったのは信頼できる少しの友人と藍宇の愛だけになり、捍東の今までの人生が全て否定されたのに、幸せそうに見える。一番好きなシーンがある。捍東の出所を祝うささやかな宴、狭い部屋で肩を寄せあう恋人の姿、「藍宇は運命の相手だった、今が本当の幸せだ」捍東が初めて見せる安らいだ表情が好きだ。
これからすべてが始まる、すべてが上手くいくと思った・・・・。
 物語を盛り上げる上で必要不可欠な展開だとは判ってるけど、ずるい、ずるすぎるう・・・・幸福の絶頂から不幸のどん底へ転落させる・・・・私は何度見ても号泣するだろうな、捍東のように。

 藍宇の愛は捍東に「愛情」を教え、だから捍東は生きて、自分自身と真直ぐ向き合う事が出来るようになった。哀しいが、前向きで美しいメロドラマだと思う。一生心に残るような。


 で、はっきり言って編集(張叔平!美術も!)あってこその『藍宇』。作品を生かすも殺すも編集次第だって事。素晴らしいよ、張叔平。關錦鵬も、今までの回りくどいというか、分かりにくい部分がすぱっと抜けて随分率直な作り方をしていると思う。それがとても心地良いし魅力的だな。關錦鵬の「最初の一歩」という気がしてならないです。

 

Q&A

2001年11月20日TOKYO FILMeX映画祭にて上映された際、監督の關錦鵬が来日する!と言われていた。が、ドタキャン。
代わりにプロデューサー張永寧が来日。
 張永寧氏は元々役者で(見た事ないけど)『藍宇』では捍東の良き友人役(捍東の妹の夫)として出演している。
今回が初のプロデュース、そんだけ『藍宇』(『北京故事』)に惚れたって事だね、共感!じゃQ&A行ってみよう。

司会:市山尚三(TKYO FILMeXディレクター)/通訳:藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア部門ディレクター)


Q 何故この映画をプロデュースしようとしたのですか?


A 最初、友人に『北京故事』を読むように言われました。ところが性描写がもの凄くて「とてもこんないやらしい小説は読めない!」と投げ出しました。しかし更に読むように言われ、じっくり読んでみると単なるゲイ・ポルノではなく素晴らしい愛の物語であると判りました。徹夜で三回も読んでしまったほどです。これは何としても自分の手で映画化したい、そして私自身が捍東を演じたいと思ったのです!決して自分の裸体を見せたいからではなくて(笑)大家族の出身である所など、捍東と私のバックグラウンドが似ている、と思ったからです。それからはプリントアウトした『北京故事』を手に、資金集めを始めました。

 

Q 關錦鵬に監督を依頼した理由は?


A 彼がゲイの監督だから、だけでなく、才能ある人だからです。もう一つは香港で名前が売れているから。私は人に『北京故事』のストーリーを説明しようとすると、すぐに泣いてしまいます。關錦鵬はそんな私を見て「判った、引き受けます」と言ってくれました。その時この映画の半分は既に出来上がったようなものでした。

 

そして会場の観客からの質問。


Q 藍宇を演じた劉燁を起用したいきさつは?


A オーディションで選びました。また、ゲイのステレオタイプといったイメージを壊したかったのであえて「普通」の青年であるという点を重要視しました。

 

Q 北京で撮影していて制約があったのでは?


A 初めから当局の許可を得ませんでした。(申請したとしても、決して許可が降りる内容ではなかったから)


Q それではゲリラ撮影ですか?


A ゲリラだなんてとんでもない!!撮影クルーは80人もいたのですからそれは無理です。
(まあ色々繊細な問題ですので突っ込まれたくなかったんだろね)

 

Q (中国人の方。中国語にて捲し立てるように質問)私は原作を読み、大変感動しました。原作では陳捍東は自分を同性愛だとなかなか認めないという、個人の葛藤が深かったし、当時の北京(中國)の社会的政治的背景も描かれていた。それがこの映画では見えてこなかったが?


A 私の考えですが、1980年代以前は中國では「ゲイ」という存在そのものが認められていませんでした。(でしょうね。あってもないものとして黙殺だからね、共産圏では特に。だから陳捍東もそういう人間の一人だと言いたいのかな?)6.4の天安門事件で彼(陳捍東)の心は真のパートナーシップを求めたのだと思います。(藍宇との関係?自分を曝け出す事かな?)しかし一方で彼は「男」として社会的な役割(結婚して妻子を持つ事)が重要であるという"ジェンダー" に捕われ、それをしなければと思っていたのです。
(司会の市山さんも言っていたが、これは解釈の違いで、是非つきつめて欲しい話題なのだが時間がない!納得のいく結論が出なかったのが残念。それにしても他の婉曲な質問に対してこの方、実にストレートに感情をぶつける質問ぶりが良かった)


Q 原作と映画とで違う点は有りますか?また、プロデューサーと役者という立場の切り替えはどのようにしましたか?


A 映画の脚本として手直しする部分は有りましたが、100%原作からかけ離れたのではありません。初めてのプロデュース作品だが、現場では常に監督を支えるよう心掛けました。

2018年11月 追記

過去のサイト『藍宇的北欧』のコンテンツなどをまとめてこのブログ内に再掲載してある。

 

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