DoubleMintGum

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映画『ラッチョ・ドローム』

自身がロマ民族出身であるトニー・ガトリフ監督は、執拗なまでに自らのルーツを追求した作品を作り続けている。

 『ラッチョ・ドローム』(1993年/フランス)

ロマの言葉で「良い旅を!」というタイトルは、何という皮肉か!と思ったが、映画を見て行くうちに別の感情が沸いてきた。
音楽ドキュメンタリーといった趣きで、ロマ民族が印度からアンダルシア地方にまで流浪して行く・・・いや、流浪せざるを得なかった道を描く。

冒頭、印度ラジャスターン地方のシーンで木片を使って歌う少年が出て来るが、それが正に「四つ竹」だった。沖縄でも使いますが、昔、大道芸の口上で見た四つ竹の使い方のほうにそっくりだったなあ。

次にエジプト、ここでは音楽で遊ぶ行為が「大人の聖域」になっている光景が面白かった。漏れて来る音を必死で探して歌や楽器を覚える子供達。

トルコでは聞き慣れた音楽が炸裂する。バルカン半島のブラス音楽に近いのが判る。クラリネット、ウード、ダルブカ等の変拍子に、だんだん座って見ているのが辛くなってくる。踊りたいなあ、こりゃライブだね。オールスタンディングで上映すべきだ。

ルーマニアのシーンで、初めてタラフ・ドゥ・ハイドゥークスの演奏を聞いた。2001年9月には来日公演も大成功を収めた「義賊楽団」である。
いまだに生々しく記憶に残る、ルーマニアの独裁者チャウシェスク。その象徴ともいえる宮殿が写り「独裁者のバラード」が歌われる。
この歌、とんでもない演歌だ!と ショックを受けている暇もなく、タラフの狂乱の速弾き即興の宴に突入!!ハメルンの笛吹きのように演奏に誘われて村人がわらわらと踊り出す。
これと同じ体験を白州アートキャンプでしたなあ。梅津和時氏率いる、クレズマー楽団ベツニ・ナンモ・クレズマーの音に連れられて、真っ暗な農道を歩いた事を思い出す。映画館なんですがもう踊りたくて踊りたくてうずうずしちゃうなあ!

道はさらにハンガリーへと続く。だんだんと、一つの土地に定住出来ず彷徨う人々の悲しみが深ーくささってくる。
私はここのシーンが一番好きだなあ。こんなに悲惨なのになんて嬉しい場面なんだろう。涙が止まらん。

雪原の中にスロヴァキアの世界遺産スピシュキー城が見える。
腕に収容所での番号を彫られた老婆が「アウシュビッツ」を歌う。
ユダヤ人、ロマ、障害者、同性愛者、この世に「必要なし」と烙印を押された人間達の歌。
そして、木の上で暮らす人々。
もうどこにも住む場所がないのだ。行く場所がないのだ。木々に枝を渡し「家」を作り生活する光景にはもう絶句。なんという か・・・・それを引きで撮った映像があまりに美しかったから、尚、かなしい。

フランスのロマ達は馬車で、トレーラーで野営をする。行く先々で犬に吠えられ、人間に吠えられる。音はだんだんフラメンコに近いものになって来た。

ラストはスペインに至る。路上でフラメンコを歌い踊るロマたち。しかし、やはり彼等の家の門はセメントで塞がれ、追い立てられる。
ガトリフ監督最新作『ベンゴ』にも出ている歌い手ラ・カイータの歌でこの旅は幕を閉じる。

       

「私は人に飼われている犬が羨ましい。寝る場所があるんだから」この歌声とパルマ(手拍子)が木霊する。
旅はまだ終わってはいない。