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追求2002年4月号ー胡軍、劉燁『藍宇』後遺症

『追求』2002年4月号

胡軍、劉燁『藍宇』後遺症

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その晩北京では『藍宇』撮影チームの打ち上げが行われた。
皆は胡軍と劉燁に「歌を歌え!」と即した。
胡軍ときたら陳捍東みたいに劉燁を見てこう言ったのだ
「おい!俺に歌ってくれよ!」
彼は最初嫌がり「歌えないです」と言ったのだが、
「いつも歌ってるあれ"あなたを一番愛してるのはこの私"だよ」・・・・ 劉燁は少し涙ぐみ、關錦鵬も張永寧も、全員が・・・・こんな撮影チームがあっただろうか。まるで今生の別れを悲しむかのような。

藍宇はまるで劉燁、陳捍東は胡軍のようであった。

報道によれば劉燁は内向的で口数が少ないそうだ。
「僕はお喋りな方ではないし、でも敏感かな。些細な事も気にしてしまう。普段は人と会うのは好きじゃない。でも撮影が始まって照明が当たった途端に興奮する」

 

彼は駐車場から歩いて来た。痩せて背が高く、長い手足。瞳は虚ろで、夢遊しているかのよう。目を閉じてじっとメイクをほどこしてもらっていたが、耐え切れず彼は言った「あなた達はなんで僕の睫毛が長いって言わないの?」
その大きな瞳から発する眼差しに、とうとう私達は大笑いしてしまった。彼はまるで無防備な赤ん坊のようだ。
いたずらっ子のように、爆笑している私達を真直ぐに見つめ、満足気に目を閉じた。
しかし取材に応える姿はというと、真面目でふざけた所がない。撮影に戻ればまたあの状態・・・・天性の役者だ。
同級生の袁泉は「彼は天然の役者。他の多くの役者が計算して考えに考えてやろうとしても、彼のようには出来ない」と評する。

藍宇とはデリケートで深いキャラクターだ。
最初劉燁は「女性」を演じようと思った。
笑う仕草、愛しい人を見つめる視線、藍宇の細部を想像して。
關錦鵬はそんな劉燁にこう言ったそうだ。
「君は、本当に自分がその人を心底愛するという事を、自分自身で信じなければ」
劉燁はそれを聞いて身震いした。心は曇りのない鏡のようになり、すぐに正しい感覚を掴めた。

相対してダイナミックと言われる胡軍は、役作りには更なる困難を極めた。
撮影開始一週間後、關錦鵬はたまりかねてこう言った「君が1人の男性として男に向ける感情は愛する人に対するそれではない。もし相手が美女だったら良かったんだろうけど、君の目の前にいるのはこの大きい青年(劉燁の身長は185cmだ)なんだ。君はどうやってきめ細かい愛情を表現する?」

ちょうど一ヶ月がたち、關錦鵬は二人を常に一緒にして毎日シナリオを読み込ませた。二人の自然な呼吸を作り出す為に。
そして彼らに、自分自身と恋人との十数年に渡る話を語って聞かせた。「彼氏が結婚するとなったら、自殺するだの酒に溺れるだのといった純情な部分から暴力的なところまで、痛み、悲しみ、そして幸福感はどんなセクシャリティーの人間でも同じなんだ。もし君たちが同性愛を「特別なもの」として見ているなら、あんな演じ方になっても仕方ないけれど」。

・・・・胡軍はもう劉燁を「女性として」見ようとはしなかった。彼は只その人を愛した。相手が誰かは関係ない。ある日關錦鵬はそんな胡軍に言った。「胡軍、役に入り込んでるね」と。

 

藍宇。もし一度でもその愛を深く心に刻んだのなら、いち俳優としての成功は時に難しくなる。或いは偶然の一致と言った方がいいのか。一見豪快なようでいて、実は好きな小説は意外にも『洗澡』のような小品だという胡軍。この中国演劇で最も期待されている俳優は、『藍宇』に没頭している三ヶ月間、まさに深刻な「役者としての危機」に陥っていたのだ。

ほとんどの場面に胡軍の出演シーンがある。映画はストーリー通りには撮影せず、各場面を行ったり来たりするものだ。その度に胡軍は、知り合った頃や、結婚、離婚、事業の成功と失敗・・・・捍東というキャラクターは愛を知らない。何かを得てそして失っていく彼の人生。胡軍は役の中でも荒涼たる人生と、運命の起承転結を味わうことになる。三ヶ月間、自分自身の人生と重ね合わせて、彼は言った。この役は心を積み重ねていくものだ、と。

 

劉燁は直感型の役者だ。彼は事前に役を分析したりせず、現場での相手との刺激、インスピレーションに任せる。
胡軍は彼にどんな刺激を与えたのか。そこから彼はどんな反応を作り出したのか。一番難しかったのは、捍東の結婚が決まり、彼と藍宇が別れる場面だった。ここは長いシーンで、劉燁はセットの中で歩き、喋り、物を片付け、泣く。
劉燁はカメラ位置を計算して、どのように動くかどう科白を言うか、そして最後には泣かなければいけない。しかし彼はその時に自然に沸き上がって来る自分の感情でしか泣く事が出来ないのだ。

この時何テイクかの撮影をした。全員が劉燁を待ったのだ・・・・数十人のスタッフは別室で待機していた、一言も声を漏らさずに。
劉燁は部屋の隅にじっと座っていた。20分が過ぎた頃、彼は關錦鵬に「監督、出来ました」と告げた。撮影開始、しかし最初のテイクはNGだった。劉燁は激しく泣きすぎて、科白がほとんど出て来ない状態だったのだ。

この場面で劉燁が泣いている時、胡軍は彼の背後にいる。泣き出したい気持ちを死に物狂いにこらえた。彼は泣いている、俺まで一緒に泣いて何になるんだ・・・・その時、胡軍は今自分が捍東であるのか胡軍であるのかが判らなくなった。彼に判ったのはただこの心の痛みだけ。これだけが真実だ、という事。

これも彼ら二人がとても好きな場面だという。


最も辛かったのは、藍宇の死の場面。捍東は霊安室に駆け付けて藍宇の死体の前で慟哭する。その日北京は特別寒かった。彼らは北京のとある公園の公衆トイレの中にいて、外はぼたん雪が降っていた。
劉燁は全裸になり、一枚の白い薄布だけをかけられていた・・・・実はエキストラを使ったところで差し支えないシーンなのだが、しかしそれでは胡軍の演技にリアリティを与えられない。軍用コートと熱いコーヒーをわきがらに用意しながらの撮影だった。胡軍が藍宇を一目見て、こらえきれずに泣く。劉燁は二時間横たわり、胡軍は二時間泣いていた。
劉燁のガールフレンドはトイレの外で、窓を叩いて二時間泣いていた。
その夜劉燁は高熱を出した。

 

全てが終わった。

クランクアップ、シナリオ終了。

關錦鵬は香港に帰りたくなかったし、全てのスタッフが北京に残りたいと思った。派手に打ち上げして、それでも誰も撮影中の衣装を片付ける事も出来ないでいたのだが、本当に終わりはやってきた。
關錦鵬は空港で皆に別れを告げた「良かった、本当に素晴らしかった」と。それからまるで軍人みたいに背中を向けて歩いていった。長い通路を行く關錦鵬が、振り向いてくれないものかと皆は期待したが、とうとう彼は振り返らずに行ってしまった。もう誰も一言も言葉を交わさなかった。
『藍宇』は終わったのだから。

 

2001年12月8日、台湾、金馬奨授賞式。プレゼンターの呉鎭宇は最優秀主演男優賞を発表する。スポットライトは胡軍に向けられていた。観客も胡軍の名を呼んでいた。

「最優秀主演男優賞は、劉燁」


その瞬間劉燁は叫んだ。本能的に胡軍の手をとって壇上に連れ立った。「胡軍がいなければ受賞はあり得なかった。これは二人の映画です。だからこれも二人の賞です!」

 

二人の映画、一人の追憶。
『藍宇』は劉燁に金馬奨を与えてくれたが、彼が言うには『藍宇』はまるでタイムトンネルみたいだ、とか。自分はまだこの世界では無名だというのにこの騒がれよう。しかし彼が一番好きな役は『バルザックと中国の小さなお針子』の中での自分で、実は藍宇ではない。なぜ『藍宇』で成功したのか、と聞かれて彼はちょっと皮肉っぽく笑って言った「この成功が大きい?」。

『藍宇』が台湾で金馬栄冠に輝いた後、劉燁はとあるテレビの時代劇ドラマに出演した。かつらをつけ、古装を身に付け、ただ待っている。助監督が「おい、走れ!走れ!」と命令するのを。
「今まで時代劇に出た事がなかったから、こうして衣装をつけたり、色々周りを観察するのが好きなんだ」彼は『藍宇』が終わった後ようやく自分の世界に戻った。取材がない時はその辺にしゃがみこんで煙草をふかし、ただぼーっと過ごすのだ。

 

撮影が終わって一年たった今、胡軍は目を閉じて想う、『藍宇』のあの日々を。すぐにドラマの撮影があったのでアモイにいたのだが、無意識に北京を離れたい、『藍宇』と距離をおきたいという気持ちがあったのであろうか。しかしひとつのキャラクターからここまでの歓喜と失意を味わった事がない。これほどまでに投入して、これほどまでに苦しんで・・・・苦しめば苦しむほどにそれはまるで激しい恋愛のように心に残る。が、胡軍は撮影中ずっと自分自身に言い聞かせていたのだ。いけない、あまりに深く入り込んではいけない、と。

 

『藍宇』から一年たっても胡軍は「あなたはゲイですか?」と聞かれている。
1996年に出演した張元の『東宮西宮』という同性愛を題材とした映画にも主演した為で、彼が演じた陳捍東が多くのゲイに支持された為でもある。

常に注目される。人がどう思おうと、そんな事はどうでもいい。劉燁は取材の際は、ガールフレンドのpipiの事を話すし、現場にも同行する・・・・それは一種の声明のようなものだ。『藍宇』が彼らに与えた変化はいかばりか。ある意味煩わしいものともいえるし、或いは、記憶の上では後遺症となっているのかもしれない。

 

「撮影後私達はしばらく連絡を取り合わないようにしました。出来るだけ早く役柄から抜ける為です。私は心を鬼にして劉燁に電話をしないようにしたし、彼もそれはよく判ってくれたらしく、彼からも電話はなかったです」と胡軍は言う。

しかしこの取材時、私は劉燁が電話をしているのを聞いた。いつ北京に戻って来るんですか?いつ一緒に飲みますか?その会話はまるで兄弟のようだった。

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