1999年/ドイツ・オーストリア・日本(原題・luna papa)
監督/バフティヤル・フドイナザーロフ
タジキスタン共和国の映画初めて見ました。丁度この頃、マフマルバフ作品を立て続けに見ていて、頭の中が中央アジアになってしまったのであった。
架空の村ファル・ホールで暮らす少女と兄とパパ。少女マムラカットを演じるのは、只今公開中の『ツバル』にも主演しているチュルバン・ハマートヴァ。可愛い!!
これは寓話の世界。幻想的だけれど現実的。月がとっても青い夜に、マムラカットは受胎する。相手の男は一体誰?ルナティックにいかれたパパと、アフガン戦争の後遺症でルナティックにいかれてる(と、思われている)兄が、必死の父親探しを始める・・。
私がこれを見ていて、思わず叫びだしそうになったのは・・マムラカットたち村の女の子が憧れているスターが、何とシャー・ルク・カー ン(印度映画界のスーパースター)だったからである。劇中では架空の名前で出てくるが、飾られているブロマイドやアイドル・グッズを見た所、シャー・ルクに間違いなし。マムラカットとドクターが献血車で逃げるシーンでも、献血車の運転席に飾られていたのは印度映画スターのブロマイドであった。あまりに一瞬で誰だか判らなかったけど・・アミターブ・バッチャンとシュリーデーヴィーかなあ?それともシャー・ルクとジュヒー・チャウラー?御存じの方、教えて下さい。
キルギス映画『あの娘と自転車に乗って』でも、村の人々の娯楽は印度映画だった。1950 ~60年代、旧ソ連、東欧諸国でヒンディー映画の監督(兼俳優)ラージ・カプールの作品が多く上映されていたからだ。当時、共産主義的な理想主義に影響を受けていたラージ・カプール作品のおかげで(?)今でもその地域で印度娯楽映画が見られているのだなーと、実感した。
モフセン・マフマルバフ監督の『サイレンス』もタジキスタンが舞台であったので、『ルナ・パパ』と共通 して見られるのが民俗衣装の美しさだ。マムラカットが着ているのはエトリス絹のワンピース(ウズベクではクナクと呼ばれている)。
和服の銘仙の様な独特の 絣模様で色彩豊か。袖の広いワンピースで、袖口は締って裾はたっぷりしているのでシルエットが美しい。長い髪は三つ編みでまとめて、ビロードやコーデュロイ、ネルで作った小さい帽子を被るが、刺繍やビーズが沢山付いていてとても綺麗。私も何個か持っています。帽子以外に普段は色とりどりのスカーフを被っている。この辺の風俗はタジク、ウイグル、カザフ、キルギスが混同していると思うが、敢えて「架空」の世界にしたのもそのせいかな。
『サイレンス』に登場する旅芸人 (音楽家)の衣装は、羊毛の帽子に、袷袢という長袍(色の綺麗な縞模様)を着ていた。黒のズボンに革長靴・・だったと思うのだが、これもウイグル的な装束だ。
シャガールの絵画から影響を受けたというだけあって、絵本をめくるような場面が広がる。大人の絵本だ、この寓話は。
次から次へとやってくる不幸。でも幸福と不幸の境目はどこにあるのだろうか。
踏み付けてくるものを超える為に天高く飛んで行く場面は力強かった。
「心の狭い、恐い顔の人たち。人間の悪魔から、さよなら。そろそろ外へ出る時だ」という、まだ生まれぬマムラカットの子供のモノローグが印象的だった。